西馬音内の盆踊り
お盆恋しや かがり火恋し まして踊り子 なお恋し
-出羽の山並みに日が沈むと、秋田県羽後町西馬音内に太鼓の囃子が鳴り響く。着飾った子供達が、篝火のたかれた通りで音頭の踊りを披露・・。
三日間にわたる盆踊りが幕を開ける。 およそ七百年前にはじまったとされ、しなやかな手振りと足運びは豊かな実りを願い。祖霊たちと一体となり踊り続けられる。・・・<西馬音内の城主、小野寺茂道一族の遺臣たちが供養の盆踊りを始めたという。>
写真<2013.8.17> 羽後町にて 鈴木慶治
端縫い衣装は布をハギ合わせることからハギ衣装とも呼ばれ百年を超す絹布を使用した衣装も少なくない。彦三頭巾で顔を隠した踊り手が加わり、あでやかな藍染め衣装が篝火に浮かび上がる。
月は更けゆく 踊りは冴える 雲井はるかに 雁の声
椎名誠 「北への旅」-妖しく美しい盆踊り-
西馬音内と書いて(にしもない)と読むのです。と聞いてう-ん、いいなあ。とすぐに言った。何がどういいのか実は自分でもよく分からないのだが、ニンゲンには無意識のカンというものがある。・・・基本的闇のなか、かがり火のあかりだけで、男と女が結構激しいお囃子や唄に導かれて、しずしず踊るのだという。しかも夜中まで、夜が更けるにつれて唄の語りは次第に過激になっていくのだという。・・・なによりも踊っている人の姿があでやかで美しい。衣装はふたとおり。端縫いという絹布を四、五種類パッチワ-クのように縫い合わせている着物を着ている人と、藍染めの浴衣である。編み笠を被った人と、目だけ出た彦三頭巾の二通りのくみあわせ。男女別に衣装が決まっているわけではなく、好き好きにこの二種類を着わけているようだ。編み笠は反りが大きく、かぶった人の顔が殆ど見えない。この盆踊りは踊っている人の顔がまったく見えないのである。見えないほうがいいヒトもなかにはいるだろうが、美しい衣装にひらひら動く白い手や腕、すらりとした細いうなじなどを見ると相当な美人ではないかと思える人もけっこういて、見物しているほうとしてはもどかしい。盆踊りはもともと豊年祈願や亡者の慰撫などもあわさってのものだから、亡者もそのまま居残ってしまうのではないか、と心配になる。-